糸の太さ(細さ)なんかの話です。子供でもわかるくらいの話にしたいのでできる限り数字や計算を出さないようにします。
「番手」という単位を聞いたことがあると思います。焼き豚に巻くたこ糸は20番手、高級なドレスシャツの糸は100番手とか120番手とか言いますね。つまり、糸が細くなるほどに数字が大きくなるのです。
その理屈を話すと、ここからが数字の話になるのでできるだけ平易に話しますね、例えば10グラムの糸があるとします、この糸を延ばすと20メートルになったとします、それを20番手と呼ぶとしましょう。今度は同じ重さすなわち10グラムの別の糸を延ばしてみたら延びて延びて100メートルになりました。これが100番手です。
距離が5倍になったということは、この糸は5分の1の細さの糸ということです。だから100番手の糸を5本束ねると20番手一本と同じ太さになります。専門的にはこう書きます、100/5=20/1。
わかったかなぁ。つまり番手の数字は一定の重量に対する距離を表すので、糸が細くなるほどに番手の数字が大きくなるというわけです。
で、より分かりにくくさせるのが、毛(ウール)と綿と麻で、その計算基準が違うんです。毛の100番手と綿の100番手は全くの別物です。
それぞれ重さが違いますね、毛は軽くて綿は重たい、麻はもっと重たい、ので、同じ計算式では無理なのです。
これ以上話すと読むのが嫌になりますから、ここでは、素材によって番手の基準が全く異なる(しかもそれぞれに相互関係もない)ということぐらいを覚えておけばいいです。
セーターの毛糸ではゲージ(Gauge、略してG)という単位もよく使われます。これはもともと編機の針の密度を表す単位で、1インチ(約2.54cm)の間に何本の編み針があるかを示します。
太い糸なら網目は少なくて済み、細い糸になるほど編み目の数は増えます。
一般に5G以下をローゲージ、6–11Gをミドルゲージ、12G以上をハイゲージ、と呼びます。30Gのハイゲージニットが着心地抜群なのもわかりますね。
このゲージという単位も、マシンニットではなくて、今度はハンドニットの方になるとこれまた計算の基準が変わるのですが、詳しく知りたい人は調べてください。
さて、100番手双糸(100/2)はよく百双(ひゃくそう)と言われるほどシャツ生地の代表選手です。
単糸では細すぎてすぐに切れてしまうので2本を撚(よ)り合わせて(=ねじり合わせて)双糸にしています。この糸の太さは50番手単糸(50/1)と同じですが、よりしなやかで繊細な糸ができます。
1本取りを単糸、2本撚りを双糸、また三子糸と言って3本撚りの糸もあります。
最初に焼き豚のたこ糸(20番手)の話をしましたが、例えば大凧の凧糸は20/18、つまり20番手の18本撚り(6本の糸をさらに3本撚る)なんだそうです。
また、強撚糸といって、強制的に撚りを強くねじり合わせた夏の冷涼素材もあったり、撚り方もS撚りとZ撚りがあったり、と、撚りにもいろいろありますがここから先は省略します。
この撚る、ねじる、というのを英語ではply(プライ)といいます。2ply(ツープライ)とか4ply(フォープライ)とか、聞いたことがあるでしょう。当社では、Voe True Shetland という無染色ウールのセーターを長年続けていますが、1ply, 2ply, 4ply, と3種類とも扱っていて、同じカタチなのに趣きはまるで異なっていて、もともとは同じ糸からできているとは思えないくらいです。
アランセーターは当社では3plyに限定していまして、これも2plyではどうしてもアランセーターのガッチリした独特な風合いが出ないのです。
布地というのは、タテ糸とヨコ糸で織られます。(ただしニット生地はヨコ糸だけ。話がややこしくなるのでここでは省略)
例えば、タテに麻を組んで、ヨコに綿を通すと、綿と麻の混紡生地ができます。だから麻50%綿50%という表記かと思いきや、これが麻60%綿40%といった組成表記になります。
なぜかというと、重量バランスなんです。麻のほうが重たいのでこうなるんですね。誰も教えてくれないので、これが私はずっと不思議でなりませんでした。
また、スーツの世界ではよく言われることがあります。英国のスーツ服地はタテ糸もヨコ糸も双糸で織られるけれど、イタリアの服地はタテ糸は双糸でもヨコ糸は単糸で織られていることが多い、だからイタリアの生地のほうが軽くて柔らかいのだけど、英国の生地のほうが丈夫で長持ちでシワにもなりにくい、という話です。
真偽の程は確かではないのですが、この話、イタリアの服は初めから花が咲いているが、イギリスの服は売られるときはまだツボミの状態なんだ、というたとえ話に似てるような気がします。
さて、ここではあえてタテ糸・ヨコ糸とカタカナで書きましたが、糸偏業界では、縦と横と言わずに、経糸と緯糸と書きます。なんでだろうと思ってましたがこれも誰も教えてくれないので、ここからは私の想像です。多分そうだったんだろう、ということです。
布地を服にするとき、縦横はほとんどそのまま使いますが、時々横向きに90度変えて成型したり(吊り編みのスウェットなど。リバースウィーブと呼ばれたりします)、スカートなんかは45度に斜め(バイヤス)に取ったりもします。つまり生地のタテとヨコは必ずしも出来上がる服のタテヨコとは一致しない、ですから縦糸横糸というと間違いが起きることもありえます。
なので、普遍的な方向を示す表現として、経糸と緯糸、としたのではないか。経緯というといきさつとも読めて、事の成り立ちを表したり、中島みゆきは糸という詩にしたり、たしかに縦横よりも雰囲気あります。
経と緯、どっちがどっちだったっけ、と分からなくなったとき、そういうときは地球儀を思い浮かべます。東経135度・日本標準時の明石の子午線、北緯45度・ミュンヘン札幌ミルウォーキーはビールの名産地という古いcm、これでタテヨコ間違えることはありません。
ちなみに英語では、経糸はwarp(ワープ。たるみ、緩み)、緯糸はwelt(ウェルト。引き締め。革靴のウェルト(細革)と同義)といいます。たわんでる糸の束の中を通して締め上げて織っていく、という感じがよく分かる、いい表現だな、と思います。
さて、糸の話あれこれ、なるべく平易に語ったつもりですが、いががでしたでしょうか。
カテゴリー: 14.学ぼう
糸偏雑筆【2】公式。革物は黒と茶を混ぜない・色のはしごを架ける
ベルトと靴の色、合ってますか。黒なら黒に、茶なら茶に、合わせましょうね。
そんなこと、当たり前だろ、って思う方は多いでしょう。
でも、この単純なルール、実は私は大学2年のときに初めて知りました。えっそうなの、って目からウロコでした。
そして、街を歩くと未だにコレができていない男性があまりにも多すぎるので、まずはここから話さなきゃ、と思うのです。
じゃ、カバンの色は合ってますか。手帳は? 名刺入れは? 時計のベルトは? さあどうですか。
スーツの歴史は簡略化の歴史でもあるので、実際にはルールはだんだん緩くなってきていて、
現代では、黒っぽく見える色、つまり焦げ茶や赤濃茶は黒と混ぜてもいいことになっています。
画像で並べた革見本でいうと、左の3つは許容範囲、だけど右の2つ(中茶、淡茶)まで明るいのはNGです。
それから、黒でも茶でもない色、例えば
こういう、濃紺、濃緑、濃炭、なんかは、逃げ道としてうまく使えば役立ちます。
私が近頃グリーンやネイビーのカバンを使うのは、実はこの革物の色統一からの逃げ道なんです。
また、カバンでいうと、近頃は革製でない合繊織布の製品も増えていて、これらのほとんどが黒ですよね。色の統一、は、ますます難しくなります。
まだ話には先があって、金属の色。ゴールドかシルバーか、これもできれば意識したいです。ベルトのバックル、時計、筆記具、カフリンクス、指輪、ネックレス、できれば統一したいです。私の結婚指輪は金色と銀色のコンビでして、時計もコンビが多い。おかげで金色にも銀色にも対応可能で大変重宝してます。
大事なことは、統一されていると気が付かない、気にならないのに、なにかが違っていると気がついちゃう、気になっちゃう、というのが、メンズファッションの世界の不思議なところ、なんですね。評価判断がどうしても減点主義に傾いてしまうのは仕方ないことなんです。
なので、これは、ビギナーへの究極のアドバイス。
革物は黒にしておけ。茶には迂闊に手を出すな。全部やり直しになる覚悟があるか。
さて、お次は、「色のはしご」を架ける。
この生地を見本にしましょう。淡茶のベースに中茶、スカイブルー、紺、赤、のライン、で、5色使いのガンクラブチェックです。
このジャケットに、さてトラウザーズ(スラックス)は何色を履きますか。
この5つの色から一つの色を選んでジャケットとトラウザーズに色のはしごを掛けます。
赤やスカイブルーのボトムを履く男性はまずいないでしょうから、
茶系を選ぶのが一般的でしょう。薄茶でも濃茶でもいいですが、でもそうすると靴も茶色にしたくなります。もし黒い靴を履きたいなら、紺のボトムを選んでみましょう。(もちろんデニムやチノパンという選択肢もありますが、話が複雑になるのでここではいったん除外しますよ)
シャツとネクタイはどうしましょう。赤系とブルー系をうまく使って色のはしごを掛けましょう。
ブルー系のシャツに赤系ピンク使いの小紋やプリントのタイ、というのはどうでしょう。
逆にピンクのシャツにブルー使いのタイ、もいいですね。
暖色系のジャケットに寒色系のシャツあるいはタイ、という組み合わせは、暖色系だけだともったりとしがちになるコーディネートを引き締めてくれます。
ポケットチーフは差し色のスカイブルーにしますか。そりゃちょっと目立ち過ぎかな、って思ったら、おとなしくベージュ系にとどめておいたほうがより好感度が増すかもしれません。職業にもよるでしょうね。
(チェックやストライプ、無地との組み合わせのコツについてはまた後日改めてやりますのでここでは省きます)
色のはしご、という意味がわかっていただけたでしょうか。
この公式も、私、大学を卒業してから知りました。だって誰も教えてくれなかったんですよ。
このスーツは今から11年前、2014年に当店が葛利毛織に別注したスーツ生地、
その名も「フィナンシャルストライプ」です。
決め手はサーモンピンクの差し色、英国の経済紙FinancialTimes(FT)の色です。
ロンドンの金融街シティをFTを小脇に挟んでさっそうと闊歩する英国紳士をイメージして、
スーツと新聞紙にサーモンピンクのはしごを掛けたのです。
で、FTを手に持てない日本人ために、新聞の代わりにネクタイも用意したのです。
英国のStephen Waltersに別注した生地を日本で縫製しました。
色のはしごを使った当店でも過去最大級のお遊びでした。
さて以上の話、元ネタは以下のとおりです。
倶樂部余話【23】公式①「革物は、茶色と黒を混ぜない」(1990年9月18日)
倶樂部余話【24】公式②「色のハシゴ」(1990年10月16日)
【倶樂部余話】 No.311 フィナンシャル・ストライプ (2014.8.28)
35年前からおんなじ話をしてるんです。キホンのキ、でありますね。
糸偏雑筆・ポロシャツの違い~カットソーって何?
2つのポロシャツ、どちらも私物で15年以上愛用しています。
この2つの違いは何でしょう。
色。ナチュラルホワイトとあせた黒。
ブランド。ラコステ(日本製)とジョン・スメドレー(英国製)。
価格。(今これと同様の新品を買うとすると) 約2万円と約4万円。
生地の組織。どちらも綿100%の編み生地(織り生地ではない)ですが、カノコ編み(隙間だらけで通気性あり)と天竺編み(細番手のシーアイランドコットンでさらりとした肌触り)という違い。
といったところでしょうか。
決定的な違いは何かというと、それは、ラコステはカットソー、スメドレーはニットウェア、ということなんです。
もちょっというと、Tシャツから派生してできたポロシャツ(カットソー)とセーターから派生したポロシャツ(ニットウェア)、同じポロでも2つは作り方が全く違うんですね。
じゃあ、カットソーからお話しましょう。
まず、生地というものには織り生地(=weave)と編み生地(ニット生地=knit)があります。
織り生地はタテ糸にヨコ糸を交差させて平面で織っていきますが、編み生地はヨコ糸だけで編んでいきます。一般的に釣り鐘のように丸くぐるぐると編んでいって、編み上がったものに縦にハサミを入れて平面の生地として管理します。
カットソーは、その編み生地を各パーツに裁断(=cut)し、それを縫い合わせ(=sew)て作ります。だからcut&sewでカットソーです。編み生地は裁断したままだと端がほつれたり丸まったりしてしまうので、それを防止するためにかがりながら縫い合わせるミシン(インターロック)が多用されます。
製品で確かめてみましょう。ラコステのボロシャツを裏返してみます。生地の向きがわかりやすいように今度はボーダー(横ストライプ)の私物を選びました。
袖付のところ、ほぼ45度に向きの違う生地をロックミシンで縫い合わせています。袖口にはリブ編みのパーツ(いわゆるちょうちん袖)を付いてます。袖リブがひっくり返らないような工夫された縫い付け方がされています。
肩のところだけは仕様が違っていて、ここは一番力のかかる箇所で弱いと型くずれしたりするので、白いグログランテープで補強してしっかりと巻き縫いされています。3箇所、違うやり方で縫い分けられています。さすがですね。確かめたらユニクロやMujiは3箇所すべて同様のロック処理で済まされていました。
さて、ニットウェアの方です。始めにまずソックスを裏返してみます。
ソックスの編立機というのはすごくて、生地を編みながら同時にはぎ合わせもして、成形してしまうのです。
これがさらに進化したのが手袋の自動編み機です。現在ニットウェアの自動編み機では世界で高いシェアを持っている和歌山県の島精機という会社は、その前身が手袋製造のファクトリーでした。
ニットウェアでいちばん重要なのがパーツごとのはぎ合わせです。縫う(sew)のではなく、リンキングといいます。LINK、リンクを張る、の、リンクです。はぎ合わせ、とか、つなぎ合わせ、と、言って、縫い合わせるとは言いません。そもそもニットウェアは縫い合わせsewができないのです。
リンキングは、ソックスや手袋みたいに自動でリンキングまで済ませる製品もあれば、リンキングだけはあとから別作業でつなげるという製品もあります。機械によっていろいろです。
製品を見てみましょう。同じくスメドレーですけど、わかりやすいように明るい色に変えます。胃カメラ画像じゃないですよ。
袖付のところです。裏側も撮りました。
リンキングは2つの生地の向きが揃ってないとつなぎ合わせられないので、
そのために生地の向きを寸前で軌道修正します。軌道修正は網目の目数を「減らし」ながら進めます。
その軌道修正の跡が合わせの両サイドにハンドステッチのような点線になって現れているのがわかりますか。
これを、減らし目模様、略してヘラシ、と呼んでいます。ニットウェアの証のようなものです。
無地のニットウェアに現れるヘラシは一種の柄のような趣があり、大きな魅力となります。
これはウールのベストですが、Vネックのところ、見てください。ここまで見事にヘラシのきれいなVネックはなかなかないです。スメドレーも最近は機械をすべて一新したらしいので、もうこんなVネックのヘラシにもお目にかかれないかもしれません。あ、脇のところにもヘラシが見えますよね。
さて、冒頭の2つのポロシャツ、どちらがいいとか悪いとかということではありません。
スポーツウェアとしてはカットソーの方が遥かに機能的でしょう。
でももしリゾートやビジネスとして着るとか、また例えば軽いジャケットのインで着るとかという場合には、ニットウェアのほうがふさわしいんじゃないかと思います。
カットソーにはスニーカー、ニットウェアには革靴、という私の基準ですが、ちょっと古臭いかも。
そもそものルーツである、Tシャツとセーターとの違い、というところが判断の分かれ目かな、と思います。
—————————–
今回から、洋服屋の立場から、最低限これだけは知っておいて欲しい、という事項を、順不同に書き綴っていこうと思い立ちまして、タイトルを「糸偏雑筆」(いとへん(の)ざっぴつ)といたしました。
今4歳と1歳の孫が将来読んでもわかるように、書き残すつもりです。
カテゴリーは「学ぼう」としました。
糸偏(いとへん)というのは、繊維に関わる業界を広く言い表した俗語です。どれだけ続けられるかわかりませんが、月に一回、5年ぐらいは続けたいと思ってます。ご拝読いただければ嬉しいです。