糸偏雑筆【4】 誰も教えてくれないネクタイの基礎知識

 第4回はネクタイの話です。
ネクタイはドレススタイルの要であって一番自己主張のできるアイテムです。ネクタイだけで一冊の本が書けるくらいたくさんのネタがありますが、ここではホントに基本中の基本、だけをお話します。近頃はノーネクタイスタイルも定着して、ますますネクタイの基礎知識を伝授する機会も減ってきました。知ってる人には当たり前、知らない人には目からウロコ、のお話になるでしょうか。

 いちばん大事な2つのこと。その1。ネクタイの幅はスーツの衿の幅と等しい。例えばスーツの衿幅が8cmくらいならネクタイの大剣(大きな方の剣先)の幅も同じく8cmくらいでないといけません。何もミリ単位で正確に合わせる必要はありません、大体同じならいいのですが、経験上から言うと、1.5cm以上違いがあると奇妙に映ります。許容範囲は1cm未満としましょう。(ニットタイは例外的に細くてもOKです) 
 話はそれますが、そもそもスーツの衿幅というのは体型によって違います。体全体のバランスなので、同じブランドの同じデザインでもです。ちょっと想像してみればわかりますよね、大男と小人の上着の衿幅が同じはずがないんです。いつも言うように、スーツスタイルの良し悪しは基本的に減点主義なので、違和感を感じたらそれは✕なんです。とても普通に見える、少しも気にならない、というのが◯の合格ラインなんです。

 その2。ネクタイの長さはベルトの穴の位置。これ、意外と皆さん適当です。でもこれがベストバランスです。この長さの調整は身長や首の太さだけでなく、猫背か反身か、お腹が出てないか、などでも人それぞれ異なりますので、正しい位置に決まるまで納得のいくまで何度もやり直してみてください。 慣れてくると結ぶときの大剣の余り方でおおよその感覚は掴めますが、何度やってもうまくいかないときもあれば、一発で決まるグッドモーニングな日もあります。ネクタイの全体の長さというのは日本製だと概ね145cmぐらいなのですが、欧米のものだととても長いものもあって、小剣側が大剣側よりも長く余ってしまうことがありますが、そんなときは余った小剣側はズボンの中に仕舞っちゃってください。

 さて、この2つのルール、これを見事に外してくれるのが、ドナルド・トランプ氏です。あの大柄な体型にタイが細すぎるし長すぎる。とてもだらしなく見えますが、多分わざとでしょう。ファッションに頓着ない、という演出です。

 結び目については、説明を省きます。シャツの衿型、スーツのゴージライン、体格、趣味嗜好などなど、多くの要素が絡みますので書ききれません。とりあえず、普通のプレーンノットだけ覚えてくれればいいです。色々やってみて、もっと大きく結びたいな、とか細長く結んでみたい、とか、欲が出てきたら順次覚えてください。
 ここではディンプルの話だけします。dimpleはエクボのことですが、タイの結び目のくぼみを指します。これはぜひ覚えてください。指3本で生地をM字型につまんで引っ張ります。まずは中央にきれいなディンブルを作れるように練習しましょう。それができるようになったら、くずし、に進みます。ディンブルの位置を少し左右にずらしたり、後ろの小剣側を少しだけ見せるように外しの技を付け、タイをより装飾的に立体的に魅せていきます。ただし、この外しの技が必ずしも好印象につながるとは限らないので、そのへんは臨機応変で。ディンプルは遊びの要素なので、好まない人もいます。徳仁天皇はディンプルをあまり好まないようです。それから、大事なこと、葬式ではディンプルはタブーです。入れてはいけません。遊びの要素は排除しないといけないからです。

 色柄についてもここでは多くを語りません。タイはその人のパーソナリティが最も主張できるパーツですから、強い主張を出したいのか弱みを示して同情を引き出したいのか、冷静沈着なのか柔軟寛容なのか、目立ちたいのか目立ちたくないのか、季節感は必要か不要か、それぞれのシーンに相応しい色柄というものを探してください。
 ただストライプの話はしておきましょう。ネクタイというのは、趣味嗜好だけでなく、その人の属性を象徴する道具としても使われます。ストライプのネクタイのことをレジメンタルと呼ぶのを聞いたことがあるでしょう。Regimental、つまり連隊、を意味しますが、英国の軍隊では、連隊ごとに固有のストライプを持っていたのでそれに由来します。わかりやすいのは学校の制服でしょうか。あれがバラバラだったら制服になりませんね。ストライプのタイはある団体に帰属していることを誇示する場合に着用される場合が多いので、誤解を招かないような配慮が必要になる場合があります。添付した写真のタイは年に二回ぐらいしか使いませんが、出身大学関連の催しの際に限定して着用します。
 ちなみにストライプのタイの向きに英国式と米国式があるのを知ってますか。ストライプの向きが右手側に下がるのが英国式、左手側に下がるのが米国式です。なぜこの違いがあるのかはわかりません。私の想像ですが、左側通行と右側通行の違いが関係しているような気がします。誰か知ってる人がいたら教えて下さい。(弥)

参考までに。
倶樂部余話【365】平成の終わりに(2019年3月1日)
https://www.savilerowclub.com/yowa/archives/611

倶樂部余話【429】 新しいウェルドレッサー (2024年7月1日)
https://www.savilerowclub.com/yowa/archives/1075